進撃の巨人-分析3-現実との比較-初期政治思想

物語初期時点の一般人の世論は、壁を信じるというものである。

あっさりと破られてしまう壁は、日米同盟(日米安全保障条約)に例えられていると考えられる。
細かい条文解釈は置いておくとして、大半の日本国民は概ね「軍事協定であり、アメリカが日本の防衛をサポート、日本もアメリカの戦争をサポート」する約束という風に見ている。
日米同盟が日本の安全保障で果たしてきた役割は、実質的に様々なところで綻びがありつつも、それなりにある、と筆者には思える。
そして、多くの日本人は、この日米同盟のおかげで日本は平和である、と考えている。
(日本国憲法の平和主義のおかげで平和である、と考える人も一定数存在する。)

だが、冷静に考えて、アメリカの若者が日本のために血を流すということは考えられない。
つまり、現代日本にとっても、日米同盟という(みんなから信用されている)壁があっけなく壊れる、ということはそんなに突飛な話ではない。

進撃の巨人では、壁は100年間安全だったという。日米同盟は50年間以上続いている。
進撃の巨人では、壁が破られた時、戦う覚悟が出来ていない駐屯兵団の無様な様子が描かれている。
戦う覚悟ができていなければ、当然の成り行きである。
おそらく、日本でも、壁が破られた時は同じ状況になるだろう。もちろん、どの国でも戦争状態で的確な判断ができるわけではないが、
日本ではさらにひどい状況になると考えられる。

壁を信じない調査兵団への冷たい目線は、日米同盟を疑問視し、自主防衛を唱える者への冷ややかな視線と重なる。

現代日本人の大半は、壁を信じる人々に重なる。
作者は、「壁(日米同盟)の問題」に気づいている人からすれば奇妙としか見えない現代日本人の心理、振舞いを丁寧に描きつつ、
壁が壊れたらどうなるのか、という考察をしているのではないか、と思われる。